W.本事業で研究したスポーツ種目

1.ゲートボール
          (千葉県立四街道養護学校)

(1)実施対象
  @障害の程度: 障害の種類や程度に関係なく行えます。
  A対象年齢 : 年齢に関係なく行えます。
  B集団の構成: 他の障害種の人や障害のない人とも合同で行うことができます。

(2)実施の場所及び期間
  @実施の場所: 地面が固いタータンや体育館の床などが適しています。
  A実施期間 : 年間を通して行うことができます。

(3)競技内容
 @概要
 各チーム5人ずつ、計10人の選手が1人ずつボールを持ち、3つのゲートを通過させた後ゴールポールに当ててゴールとなります。
各ゲート通過は1点、ゴールポールに当てると2点で選手一人が上げる得点は最大で5点となり、ゲームの最高得点は25点となります。制限時間内に上げた得点数の多いチームが勝ちとなります。

 A人数と競技時間
 1チーム5人(交代要員2人を含め、最高7人まで可)。コート上で常時プレーするのは5人ですが、7人いるときは2人が交代要員となります。競技時間は原則として30分です。

 Bコート(図1)
 地面が平らで、車椅子で競技しても競技場が傷まないタータンや体育館の床のような場所が適当です。体育館で行う場合、バスケットコートなどのラインを利用すると簡単にコートができます。



 C用具(写真1)
 ア. スティック:ゲートボールのスティック
 イ. ボール:屋内用のゲートボールのボール、または硬式用のテニスボールです。硬式用テニスボールを使用すれば転がりやすく、ゲームがよりおもしろくなります。
 ウ. スパーク用補助具:車椅子の競技者がスパークするときボールを固定するための道具です。この場合、ボールを固定する補助員が必要となります。
 

写真1

(4)車椅子競技者の競技参加
  @スティックを手で操作できる場合(写真2)
  ア. 車椅子を止めて、スティックを振り子のようにして打つことや車椅子の前で打つことができます。
  イ. 助走をして打つこともできます。この場合は、スティックの側面で打っても良いことにします。


写真2

 Aスティックを手で操作できないため、車椅子に固定して打つ場合。
  ア. 車椅子のフットレストに固定して打つ場合
(写真3)
  イ. 3〜4mの助走をして、スティックの側面で打ちます。
  ウ. 車椅子によっては、手を乗せる台が付いてるため床のボールが見えない場合がありますので、競技者が打点の位置を確認できるようにスティックの位置を調整する必要があります。

写真3

B車椅子に仰向けの状態でボールを打つ場合 (写真4)

  ア. 仰向けで使用する車椅子の形状・機能と選手の状態は様々です。一人一人の補助具を作製し取り付けます。
・床のボールが確認できるように、鏡などを使った補助具を取り付けます。
・補助具を使って車椅子の側面にスティックを固定し、ヘッドがボールに当たるように調整します。
  イ. ボールを打つタイミングやボールが転がる感覚を得るための練習が十分必要になります。

写真4

Cスパークする場合(写真5)

  ア. 車椅子の競技者がスパークする場合は、ボールを固定する補助具が必要となります。
  イ. 固定する補助員が必要となります。
  ウ. 車椅子を使用しない競技者も、自分でボールが固定できない場合は、補助具を使用することができます。

写真5

(5)ゲームをするときの主なルール

ア.打順: 先攻は赤チーム、後攻は白チームが行い交互に打撃をする。
イ.得点: ゲート通過・・・各1点
ゴールボール・・ 2点       計5点
ウ.タッチ: 他のボールに自分のボールが触れる
・・・・スパーク権が与えられる。
※スパーク・・・・ 自分のボールを固定しタッチしたボールだけを転がす。
エ.スパーク権: 第1ゲートを通過すると、権利が与えられる。
オ.アウトボール
  からのタッチ
・・・・どちらも元の位置へ
カ.ツータッチ: 他の2個のボールに自分のボールにが触れられる。
・・・・2回のスパーク権が与えられる。
キ.スパーク失敗 ・スパークしたボールが10cm以上離れない場合。
  ・相手ボールそのまま。
  ・自分のボールは近くのライン外へ。
・スパークしたボールが他のボールに当たった場合。
・・・・打撃権を失う。
ク.同じボールに
  再びタッチした
・スパークボールはそのまま。
・当てられたボールは元の位置へ

(6)なぜ今、ゲートボールなのか?
 @理由
 現在では、400万人をこえる競技人口があるといわれ、多くの年齢層に親しまれています。小学生から高齢者に至るまでプレーを楽しむことのできるファミリースポーツだからです。
 得点やゴールするまでの間に、ボールを打つ技術、チームとして味方を援護したり、相手を攻撃したり、場面場面で戦術が変化するなど個人競技とチーム競技が融合したスポーツだからです。
 そのため、車椅子の人も気軽にゲームに参加ができて、障害のない人と共に協力しながら競技して楽しさを共有することができるからです。
  A特性
  ア. 運動負荷が調節しやすいです。
  イ. 一人ひとりに活躍の場が均等にあります。
  ウ. 車椅子の人もルールの原型をそれほど崩すことなく行えます。
  エ. チームで作戦を立てながら協力してプレーすることができます。
  オ. 技術面でそれぞれに合った活動ができます。

 B車椅子で行えるスポーツ
写真6は、高校生との交流の場で混合のチームをつくり、ゲートボールをしているところです。ゲームのあとでそれぞれに感想を書いてもらいました。



写真6


(養護学校の生徒の感想)
  a.  体育の時間に練習していたことができてよかったです。第1ゲートを通過したときに高校生が「オー」と驚いていました。これには少し鼻が高くなった気がしています。
  b.  スパークするときに補助具を押さえるのに時間がかかってしまったり、スパークを頼んだりと色々と気を使って大変でした。意思の疎通をはかるにはもっと時間がかかると思いました。もっと、スポーツを一緒にやってみたいです。もっとたくさん高校生の人とゲームができるように補助具などを作っていきたいと思います。
一回一回の打撃にだいぶどきどき緊張しました。

(高校生の感想)
  a.  何回交流会をしても、何をどう話しかければいいのか戸惑っています。
しかし、ゲームなど一緒にやってとても楽しかったです。ボールがヒットするのに微妙な力加減が必要でとても難しかったです。
  b.  病気のことを知れば知るほど大変そうなことが分かってきました。でも、楽しくて自分自身すごく楽しんでしまいました。ゲームで一緒に組んだ人とは、作戦を考えとてもおもしろかったです。これで3回目の交流会ですが、うちのチームが負けたので悔しいです。しかし、いつも養護学校のみなさんの一生懸命さに感動しています。

(7)技術を習得するための練習の仕方

1 オリエンテーション
・ゲートボールとは?
・個人練習・・・ボールを転がし距離感をつかむ。ゲートを利用して通過する練習をするとなお効果的です。
2 スパークの練習
・個人練習・・・自分のボールを固定しタッチしたボールだけを転がします。
※ボールを押さえる技術と打撃する技術は高度なため、習得するのに十分な練習を要します。
3 個人戦
・30分以内にゴールした競技者が優勝とするゲームをします。
※おおまかなルールを覚えるためのゲームとします。
4 チーム戦
・チーム分け・・・今までの練習からお互いのチームの技術が均等になるように編成します。
・ゲーム・・・キャプテンを選出し対戦します。
※初めてのゲームでは、作戦やキャプテンの指示に時間がかかるため、制限時間の30分にはとらわれなくてもかまいません。
5 ルールの確認と作戦の立て方
・ゲームをしたときに、特に必要なルールの確認をします。
・作戦会議をして、チームの結束を高めます。
6 ゲーム
・リーグ戦やトーナメント戦を行います。
・前半戦や後半戦など色々な対戦方法を工夫することも必要です。

※指導者は、個人個人の技能を十分に把握し、チームが均等になるようにチーム分けすることが必要です。

(8)競技者(生徒の感想)
  a.  初めてゲートボールをやりましたが、第1ゲートくらいはすぐに通過するだろうと思っていましたが、なかなか通らなくてめげてしまいました。第1ゲートを通過しなければ、スパークもできないし先にも進めないので、やっていて皆から取り残されたような気がしてつまらなかったです。狙った所に真っ直ぐにボールがいくように、もっと練習をやっていればよかったと思います。
  b.  今日は、相手のボールをスパークばかりして気持がよかったです。うまい具合に相手のボールにタッチできたし、続けて2個もスパークしてチームも勝ちました。今日は、出だしから調子がよかったです。
c.  キャプテンをして、作戦を考えていました。第2ゲートの前に、先にうちのチームのボールが集中できたのが勝因だと思います。作戦を皆で考えていくのが楽しいです。

(9)スポーツを通して
 中学部、高等部になると多くの筋ジストロフィーの生徒は、病状の進行に伴い身体の変形や苦痛が現れてきます。また、入院によりやむを得ず家族から離れることとなり生活が制限されてきます。そして、今後自分の身体はどのように変化していくんだろうか、という将来への不安など私たちが想像し得ない葛藤を抱きながら、毎日を過ごしている生徒が少なくありません。
 このような生活を送っている彼らに対して指導者は、「スポーツを通してどのようにアプローチしていけばよいのか?」。大きなテーマであります。大切なことは、彼らが活躍するスポーツのなかで、私達指導者が共感的な態度で寄り添っていくことだと考えています。このようなことを念頭において指導していくことにより、彼らの身体への不安はだいぶ軽減されるものと考えています。
 高等部に新たに入学してくる生徒のなかからは、普通の中学時代に、「スポーツをしたことがない」という言葉をよく耳にします。体育の時間はいつも見学で、級友が運動している姿を見て過ごしたそうです。ですから養護学校に入学して初めてゲートボールをしたりドッジボール、テニスなどの競技を経験します。そのため例えば、ドッジボールでは、外野内野の連携や守り方、勝敗の決め方など一つ一つ初歩的なことから説明をしていかなくてはなりません。運動を通して生徒は、相手に当てる楽しさや当たらないように逃げ惑う緊張感を感じ取るわけです。生徒は、授業時間だけでは物足りず、昼休みの時間も利用して道具の調整をするなど気持の入れようです。彼らも障害のない生徒と同様、スポーツをする意欲があります。ただその機会に恵まれずにいただけなのです。
 高等部では、過去4回近隣の高校との交流会を行いましたが、その際、生徒達は必ず一緒に活動できるスポーツを計画しました。思うように身体は動かなくとも、同世代の高校生と対等に試合ができるようにルールを工夫し、補助具を改良して取り組んでいます。「自分達も工夫次第で高校生の人達と対等に試合ができるんだ」という気持ちが出てきました。交流会でゲートボールをすることが決まると、念入りに補助具を改良したり、調整したりしながら練習にも熱が入ってきます。このことからも、「どうにかしていいプレーを見せたい・勝ちたい」という気持が伝わってきます。
 ですから、私達指導者は障害のある人が、障害のない人達と一緒になって楽しめるスポーツをもっと多く考案していかなければなりません。その際、障害のある人のハンディーは補助具を工夫することで軽減を図り、ゲームのルールはできるだけ原型にとどめるようにすることが大切です。生徒と共に考え出し、彼らに一歩でも内面からアプローチしていければ、日々の生活に対する意欲の向上へとつなげて行けることと思います。

(10)今後の課題
  @ 筋ジスの生徒達が障害のない人達と一緒に楽しめるスポーツの開発をより進めていく。
  A ハンディーを軽減し、障害のない人と共に楽しむための一人一人の補助具を開発していく。
B スポーツを通じて同世代の人達と交流を深められる場の設定のあり方を考える。

(鎌田 薫)

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