U.平成12年度調査結果の報告

1.小・中・高等学校に通う筋ジストロフィー児童・生徒の体育への参加状況


(1)はじめに
 近年、筋ジストロフィー患児・者の医療形態の主体が入院から在宅療養へと様変わりしてきました。また、学校も養護学校ではなく地域の小・中・高等学校へ通学する患児が増加しています。その是非はともかく今、地域の学校への筋ジストロフィー児童・生徒の受け入れ状況を正確に把握することは非常に重要と思われます。さらに、特に困難が予想される体育・スポーツへの参加状況を把握する目的で本調査は実施されました。

(2)対象・方法
 調査方法は、全国の日本筋ジストロフィー協会会員のうち調査の趣旨説明で了解が得られた患児が在籍する学校へのアンケート調査としました。
 小学校の児童を持つ家族154名、中学生69名、高校生34名に調査協力を依頼しました。その結果、71名の患児家族から了解が得られましたが、そのうち学校からの回答が得られた64名を対象としました。

(3)対象の背景
 地域別には、青森から沖縄まで大きな偏りは見られませんでした。性別は男子62名、女子2名でした。病型を表1に示しました。また、学年別対象者数を表2に示しましたが、小学生44名、中学生13名、高校生7名でした。
学級形態は通常の学級が34名(53%)、特殊学級が29名(45%)、不明が1名(2%)でした。対象の障害度分類を表3に示しました。通学方法は、小学生では徒歩が8名、車いすが13名、自家用車が9名でした。中学生では、徒歩1名、車いす3名、自家用車9名、高校生は7名全員が自家用車での送り迎えでした。

表1 診断 表2 学年別対象数

診断 (家族) (学校)
デュシェンヌ型
ベッカー型
福山型
筋強直型
不明
51
2
3
2
6
44
2
5
1
12
合 計 64 64

※家族の診断名と学校の理解している診断名の差に注目




学 年 (人数)
小学1年 5
小学2年 4
小学3年 14
小学4年 6
小学5年 10
小学6年 5
中学1年 8
中学2年 4
中学3年 1
高校1年 4
高校2年 2
高校3年 1
合 計 64
表3 障害度

障害度 (家族) (学校)
障害度1 5 5
障害度2 16 14
障害度3 1 3
障害度4 5 5
障害度5 5 7
障害度6 12 10
障害度7 18 19
障害度8 2 1
合 計 64 64

※診断と同様、家族の診断名と学校の理解が食い違っている

(4)結果
 学校体育への参加状況をみると、他の授業、リハビリテーション等への振り替えで不参加の者が11名(17.2%)でした。その内訳は小学生で6名(13.6%)、中学生で5名(38.5%)でした。一方、参加者の参加形態は、見学が8名(15.4%)、審判・得点掲示係等としての参加が8名(15.4%)、介助参加が36名(69.2%)でした。とりあえず選手としての参加を意味する介助参加は、小学生で78.4%、中学生が62.5%、高校生は28.6%と、年齢とともに減少していました。種目に関する調査結果を表4に示しました。種目は多岐にわたっていましたが、そんな中で水泳を種目として挙げていたケースが10件ありました。また、車いすを用いた種目を挙げた例が2件でした。レクレーション的、運動場大のスゴロクゲーム、ゲーム機感覚のもの、休日の散歩、スポーツ観戦といった体育種目とは言い難い範疇に含まれるものも目立ちました。特に高校生では具体的に参加種目を記載してあった4例のうち半数がこの範疇に属しておりました。体育の際の着替え実施率は小学生で62.5%、中学生53.8%、高校生28.6%でした。

表4 参加種目および着替えの状況

体育への参加 人数 小学生 中学生 高校生
水泳 8 6 2  
水泳、球技 1 1    
キャッチボール、水泳 1     1
トランポリン 1 1    
ニュースポーツ 1 1    
フライング・ディスク・ゴルフ 1     1
ペタンク 1   1  
ボーリング、ゲートボール 1 1    
ボールゲーム 1 1    
リハビリ体操、座位バレーボール 1 1    
リフトバレー、卓球バレー 1 1    
レクレーション的 2 2    
風船バレー 1 1    
運動場大のスゴロクゲーム 1   1  
車いすを使用の種目 1 1    
電動車いすサッカー 1     1
ストレッチ等 2 1 1  
ゲーム感覚のもの 1     1
休日の散歩 1 1    
スポーツ観戦 1   1  
合 計 29 19 6 4


体育の際の着替え 人数 小学生 中学生 高校生
する 40 31 7 2
しない 24 13 6 5
合 計 64 44 13 7

(5)考察
 筋ジストロフィー患児が地域の学校に通学し、さらに体育の授業に参加する事の困難さは想像に難くありません。その「困難さの原因は?また打開策はないものか。」、これが今回の調査の出発点でした。しかしそんな中、安易に他授業、リハビリテーション等へ振り替えるのではなく、何とか積極的に体育に取り込もうとしている現場の姿勢も読みとれました。「どんな種目をどのように」、現場が最も欲している情報はまさにこの点であると思われます。これらの問いに答えることが筋ジストロフィー教育に長くかかわってきた専門施設に課せられた義務ではないでしょうか。そんな中で、今回まとめられたビデオ、冊子の意味は大きいのではないかと思います。
 一方、筋ジストロフィー児童・生徒の体育参加に当たり、教育現場の特に欲している情報として、医学的情報があると考えられます。筋ジストロフィーでは肢体不自由に加え、呼吸機能障害、心機能障害が、程度の差こそあれ必ず伴います。そのような児童・生徒に安全に体育指導をするにあたり、医療的情報はぜひとも必要でしょう。例えば水泳を例にとると、「気温、水温はどの程度が適当か(逆に中止基準)」、「プールに入っている時間はどの程度にすべきか」、医療者側はできるだけ具体的に情報を提供する必要があるでしょう。
その他の種目における、姿勢保持についても当然指導があるべきです。

(6)おわりに
 筋ジストロフィー児童・生徒の地域社会への参加は今後ますます促進されるものと思われます。したがって、地域の小・中・高等学校へ通うケースもさらに増加していくでしょう。そうであれば、今後は受け入れ姿勢が問われることは間違いありません。最も困難と思われる体育授業への対応はそのバロメーターとなるのではないでしょうか。
(多田羅勝義)


戻る   次へ