神戸大学医学部での筋ジストロフィーDNA治療のニュースについて
神戸大学医学部での筋ジストロフィーDNA治療のニュースについて

 2003年10月29日(水)に、新聞、テレビ等で報道されました、神戸大医学部(神戸市)の松尾雅文教授らによる、デシャンヌ型筋ジストロフィーへのDNA治療のニュースについて、国立精神・神経センター武蔵病院院長 埜中征哉先生に解説をお願い致しました。


2003/11/10
 
 神戸大学医学部小児科の松尾教授は以前から、DNA治療の研究を重ねてこられ、倫理委員会もパスしていました。随分以前から、治療開始の体制は整っていました。今度、いよいよという感じです。
 このDNA治療はデュシェンヌ型の患者さんに対するものです。それもデュシェンヌ型すべての患者さんには応用できません。
デュシェンヌ型でエクソン20が欠失した患者さん(エクソン20以降のエクソンが欠失した方も含む)が対象になります。
 エクソン20が欠失したデュシェンヌ型の患者さんでは、ジストロフィンが完全に欠損しています。その患者さんにエクソン19の欠失も起こるようにします。すなわちエクソン19、20の欠失を作るようにします。エクソン19、20の欠失の患者さんはベッカー型です。
松尾先生達のDNA治療はデュシェンヌ型を軽症のベッカー型に変えるものです。
ではエクソン19をどのようにして取り去るのでしょうか。ちょっと難しい話になります。エクソン19にはスプライシング促進配列があることが松尾先生達により見つけ出されました。スプライシングとはエクソンーイントロンーエクソンーイントロンと並んでいる遺伝子からイントロンを切り取り、エクソンーエクソンーエクソンーとすることです。
遺伝子の中の要らないものを切り取り、並べ替えて、遺伝情報に必要なものだけを作ること、それがスプライシングです。
エクソン19の中にスプライシングを促進するDNAがあるので、この促進DNAを押さえ込めば、エクソン19は取り除かれることになります。促進DNAを押さえ込むDNA。それは促進DNAと反対の配列をもっています。そのDNA(アンチヌクレオチド)を合成して、患者さんに投与します。
デュシェンヌ型をベッカー型に変えることなので、根本治療にはなりません。ベッカー型の中には50歳以上になって筋力低下が出現するような軽症の方もおられます。
デュシェンヌ型がそのような軽症型に変わるだけでも大きな意味があると思います。松尾先生達は今、その他のエクソンが欠失した人達にも上の方法が応用できるように工夫をしておられます。もっと多くのデュシェンヌ型の患者さんがこの治療を受けられるようになるでしょう。科学の進歩にただ、ただ驚くばかりです。

国立精神・神経センター武蔵病院院長 埜中征哉

用語説明
・エクソン(exon) 分断された遺伝子中でRNAまたはタンパク質として発現する部分
・イントロン(intron) DNA中で遺伝情報を持たない部分
・スプライシング(splicing) 遺伝情報を編集や切断、修復すること


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