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DMD mRNAの解析から見えてきたこと

松尾 雅文(神戸学院大学総合リハビリテーション学部)

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの心機能障害にはDp116の発現が関与している

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、進行性の筋萎縮を特徴とする最も頻度の高い小児発症の遺伝性筋疾患です。伴性劣性遺伝をとり男児3500人に1人が発症するとされています。DMDは4から5歳時に走るのが遅い等の筋力低下の訴えが見られます。

現在では、こうした筋力低下の症状が出現する前に偶然に血液検査によってクレアチンキナーゼの上昇が見い出されて発見される発症前の診断例が増えています。DMDでは生涯にわたり筋力低下が進行してゆきます。

近年、DMDの生命予後は大きく改善し、20歳代後半あるいは30歳代となっています。そして、その死亡原因は心機能障害による心不全が殆んどです。したがって、生命予後の改善には心機能障害の予防・治療法の確立が必須です。

現在、DMDの心機能障害の早期発見と治療を目ざして、心臓エコー検査等がほぼルーチンに実施され、多くの患者さんが心保護剤の服用をしています。

この様に、心機能障害への対応が大きく変化したとはいえ、心不全による死亡がDMDの早期死亡の大きな要因であります。

私達は、神戸大学小児科を受診中のDMD患者さんの10年以上に亘る心臓エコー検査の結果をまとめました。そして、心機能障害の発生とジストロフィンアイソフォームの欠損との関連を調べました。DMDはDMD遺伝子の異常により、ジストロフィンというタンパクが産生されなくなって発症します。

正確にはこのジストロフィンはDp427というアイソフォームで、DMDはDp427欠損症です。しかし、DMD遺伝子に生じた異常の場所によって、その他のアイソフォームであるDp260、Dp140、Dp116あるいはDp71の欠損を合併したりしなかったりします。

今回、この様なアイソフォームの欠損と、25歳になった時に心エコー検査で左室駆出率が53%未満(EF<53%)となる心機能障害の発生との関連を検討しました。その結果、Dp116を発現しているDMDの約9割が心機能障害を発症するのに対し、Dp116を欠損するDMDでは約4割でしか心機能障害を発症しないという予想外の結果を得ました。

両群間には心機能障害の発生に2倍近い差がみられました(図1)。これは、Dp116というアイソフォームを発現することが心機能障害の発生を促すことを示しました。

図1:25歳時の心機能障害

この結果は、DMDの心機能障害の発生にDp116が関与することを世界で初めて明らかにしたものです。この結果はまたDp116の発現を阻害することがDMDの心機能障害の発生予防になることを示唆するもので、新しい治療法の開発に道を開くものです。今後の成果が大きく期待されます。

参考文献:
Yamamoto T at al., 2018, Cardiac dysfunction in Duchenne muscular dystrophy is less frequent in patients with mutations in the dystrophin Dp116 coding region than in other regions, Circ Genom Precis Med in press