筋強直性ジストロフィー患者の認知機能障害とQOLの評価
藤野 陽生(大分大学 教育学部)
筋強直性ジストロフィーと生活の質(QOL)
筋強直性ジストロフィーは、筋力低下に加え、多臓器に影響があるために、家事などの日常生活や人付き合いといった社会生活にも制約が出てきてしまいます。その結果、患者さんの生活の質(QOL)に影響を及ぼすことになります。
QOLというのは、診断や客観的な検査などのように、客観的に判断するものではなく、患者さん自らが主観的に感じるものです。つまり、たとえ客観的な症状が同じくらいであったとしても、どのくらいその人の生活に支障が出ているのか、自分の生活が大変だと感じられているのかは、ひとりひとり違っているということです。そのようなQOLを把握するためには、患者さん自身の実感や抱えるニーズを把握する必要があります。
そこで、私達は海外で開発された患者さん本人が評価するQOL尺度を翻訳し、日本語版を作成しました。その調査票では、患者さんの筋力低下や疲労感、痛み、といったそれぞれの症状の困りの程度、そういった病状によって日常生活や人との付き合い、心理的な辛さといったさまざまな領域に、どのくらい支障が出ているのかを、患者さんが評価していくものです。客観的・医学的な評価に加えて、このような患者さん本人の評価を合わせていくことで、その人の状態を、より多面的に見ていくことができます。
筋強直性ジストロフィーでは、身体面の症状に加えて、注意が持続しにくい、集中して仕事をするのが難しい、計画的に物事を進めるのが難しいといった問題がある場合もあります。そのような物事を知覚する、判断したり、記憶したり、注意を持続するといった、認知機能も病気によって影響されることがあります。そうなると、それらが生活のさまざまな面(仕事や対人関係など)に影響する可能性があります。
私たちは、そのような問題について研究を進めてきた結果、特に、注意機能(注意を持続する)や処理速度(物事を処理する速さ)などがQOLと関連していることを見出しました。また、疲労感や気分の落ち込みはQOLに特に強く影響していました。これらの問題に対する支援をしていくことが、将来的に患者さんのQOLを向上させることにつながっていくことが期待されます。