Duchenne型筋ジストロフィーにおける尿中タイチン測定の診断的意義
粟野 宏之(神戸大学医学部附属病院 小児科)
Duchenne型筋ジストロフィーにおける尿中タイチン測定の診断的意義についての研究
近年、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)に対する新しい治療法の開発が盛んにおこなわれています。DMD患者さんを早期に発見し、早期に治療するという時代が到来しつつあります。そこで、DMD患者さんの早期診断がとても重要になります。
DMDの診断には、血清クレアチンキナーゼ(CK)が古くから使用されてきました。しかし、CK測定は血液検査で行うため痛みが伴いす。また年齢や検査前の運動の影響で値が変わるため、CK測定だけでDMDを診断できず、判断に困る場合がありました。そのため、血清CKに代わる、痛みが少なく、信頼性の高い検査法が望まれていました。
私たちは、尿の中にあるタイチン(コネクチン)というタンパクに注目しました。尿中タイチンの測定が、DMD患者さんの診断に役にたつ検査法であるかについて研究しました。タイチンはヒトで最も大きなタンパクで、筋肉においてばねのような役割を担っています。この大きなタンパクであるタイチンは解析が難しく、これまでタイチンに関する活発な研究がなされてきませんでした。
しかし、2014年に大きなタイチンが分解され、小さくなった断片がDMD患者さんの尿中に排泄されることが報告されました。この尿中タイチン分解産物は、健常人の尿には排泄されないことから、尿中タイチンを測定することができれば、DMD患者さんと健常人を判別することができると考えました。
そこで、私たちは尿中タイチン分解産物を測定するためのキットを開発しました。この尿中タイチン測定キットを使って、DMD患者さん132人から尿をいただき、濃度を測定しました。そして、健常人の尿中タイチン濃度と比較して、尿中タイチンがDMD診断に役立つものであるかについて検討しました。
すると、驚くべきことに、DMD患者さんの尿中タイチン濃度の平均値は、健常人にくらべて100倍以上も高いことが明らかになりました(図1)。
さらに尿中タイチンはDMD患者さんと健常人を極めて高い精度で区別できることもわかりました。すなわち、尿中タイチンを測定し、値が大きい場合は、99%以上の確率でDMD患者さんであることがわかりました。
これらの結果から、尿中タイチン測定は、DMD患者さんの診断に極めて有用であることが明らかになりました。DMD患者さんの早期診断に大きく寄与するものと考えます。尿中タイチン測定は血液検査と違い、痛みがなく行える簡便な検査法です。今後は診断のみならず、患者さんの病状をストレスなく評価できる検査としての応用を考えています。
当科では、DMD患者さんの治療や日々のケアに役立つような研究を行っていますので、多くの皆様に外来を受診していただき、ともに病気の克服にむけてチャレンジしていきたいと考えています。どうぞよろしくお願いします。