遺伝子医療とピアカウンセラーの役割 ―遺伝子医療における患者・家族の意識調査―
井原 千琴(一般社団法人日本筋ジストロフィー協会)
分担研究者:貝谷 久宣
井原 千琴(文責)
貝谷 嘉洋
竹田 保
大島 松樹
新宮 武徳
小林 喜三重
田野 芳博
白木 洋
矢澤 健司
佐藤 隆雄
一般社団法人日本筋ジストロフィー協会
「遺伝子医療における患者・家族の意識調査」は、会員の皆さまの受けた遺伝子医療の現状を把握し、遺伝子治療などの先進医療に対するニーズや期待を明らかにすることを目的として、1992年から3年に1度、精神・神経疾患研究開発費の武田班(主任研究者:武田伸一先生)で実施されており、会員の皆さまの声を研究者の先生方へお届けする貴重な機会の一つとなっています。今年度は9回目の調査となりました。
郵送・自記式・無記名のアンケート調査で、支部長を介して一世帯に患者用・家族用同内容の2部が配布する方式で、今年度は在宅560世帯と入所240世帯の計800世帯へ配布しました(表1)。
有効回答率は43.7%、患者用アンケートの回答者の平均年齢は44歳、家族用は58歳で、在宅患者世帯が8割、病型は患者・家族共にDMDが最も多く約3から4割、次いで家族では福山型、患者では肢体型でした。
遺伝子検査に関する知識に関する質問項目では、筋ジストロフィ―が「遺伝子変異による病気であることを知っている」は約9割、「遺伝子検査で診断できることを知っている」は約8割、「遺伝子検査を受けた」は患者で約6割、家族(自身の検査)で約3割でした。1992年の調査と比較すると遺伝リテラシーの向上や遺伝医療の普及が示唆される結果となりました。
情報源等の利用状況に関する質問項目では、「研究に関する情報源」として「協会の会報やHP」が比較的多くの会員によく読まれていること、また、患者登録している人は国立精神・神経医療研究センターの患者登録部門Remudyのホームページ等をよく見ていることがわかりました。
先進医療等に対する意識に関する質問項目では、遺伝子治療などの先進医療について疑問に思っていることや心配していることについて、前回2014年実施の調査の自由回答に記載された内容を以下の11項目の選択肢(「高額な治療費が負担できるのか」、「いつになったら治療が受けられるのか」、「治療のリスクはあるか」、「どこまで治療効果があるものなのか」、「自分たちの病型についても治療法の開発研究をしてほしい」、「年齢や症状から自分たちは先進医療の対象になれるのか」、「治療方法について分かり易い説明をしてほしい」、「どこでも受けられるのか」、「わからない」、「特になし」、「その他」)にして回答いただいたところ、患者・家族共に「高額な治療費が負担できるのか」が最多でした。いずれの項目においても比較的多くの賛同が認められたことから、これらの項目が課題として患者・家族の間で共有されていることが伺えました。
対象者の選択が無作為抽出ではないこと、代筆による回答を認めていることといった調査手法の限界はありますのが、遺伝医療の普及、治療法開発研究への期待感や懸念と共に、研究者の先生方へ協力していきたいという姿勢やそこへ患者会として協会が情報発信等を通じて関わることができる可能性を改めて確認することができました。
ご協力いただきました協会会員とそのご家族、各支部長およびスタッフの皆さまには深く感謝申し上げます。
- 文献:
- Kaiya, H. "Japanese muscular dystrophy families are more accepting of fetal diagnosis than patients ", Eubios Journal of Asian and International Bioethics 6 (1996), 103-104.
対象 | 日本筋ジストロフィー協会の患者・家族800世帯 |
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対象者の抽出方法 | 支部長(36支部)に委任 |
アンケートの形式 | 無記名、自記式、郵送。1世帯に患者用・家族用同内容の2部を同封。 |
回収期間 | 2017年9月~10月 |
有効回答率 | 43.7% (注)代筆も含む
有効回答は回収された726枚のうち無回答が多いなど27を除く699(患者369 家族330) |
解析 | SPSS statistics Ver.23 |
調査項目
(質問数) |
基本的属性(7)
遺伝子検査に関する知識・経験・意識(7) 患者登録活動への意識(5) 出生前診断等への意識や情報源等の利用状況(3) 先進医療等に対する意識(4) 緊急時の医療環境や自立生活への希望(5) |
(注) 協会の倫理委員会において審査・承認を受けて実施しています。