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筋強直性ジストロフィーの特徴的血糖変動に関する検討

高田 博仁(AMED高橋班代謝障害研究グループ:国立病院機構青森病院)

持続血糖測定器による筋強直性ジストロフィーにおける詳細な血糖変動の検討

筋強直性ジストロフィー(DM)は、成人で最も頻度の高い筋ジストロフィーです。筋強直現象(ミオトニア)と筋のやせや力の低下が中心となる症状ですが、多臓器にわたる障害が合併することがあり、糖や脂質の代謝障害が知られています。

Remudyによれば、本邦におけるDM患者さんの約2割に糖代謝の異常が認められています。糖代謝とは、摂取した食事を糖に分解してエネルギーに変えて活動し、余分なエネルギー蓄え、必要なときに利用するというサイクルのことです。糖代謝障害が進むと糖尿病を発病することになります。

現状では、2型糖尿病に対する治療に準じて、DMに合併した糖尿病の治療が行われています。しかし、DMではインスリン受容体の異常があり、筋萎縮等の2型糖尿病にみられない要素が加わるため、より複雑な病態を呈するものと考えられています。

血糖はインスリンにより調整されていますが、インスリンの受容体に問題があるとインスリンの効き目が悪くなり、糖の貯蔵庫としての役割がある筋の量が減ると食後血糖が上がりやすく空腹で血糖が低くなりやすい等、血糖の変動が大きくなるからです。

我々AMED高橋班代謝障害研究グループは、DMの糖代謝障害に適した治療を行うため、DMに合併した糖尿病に特徴的な所見を明らかにすることを目的として、先の松村班の時から、血糖持続測定器(CGM)を用いてDMにおける血糖変動の詳細な解析を試みる研究を続けてきました。

CGMとは直径3cm程の小さな測定器を腹部に装着して日常生活を行いながら、72時間にわたって血糖を測定記録することができる検査です。我々は、このCGMによるDMの血糖変動に関する検討から、新たな知見を幾つか得ることができました。ここで、皆様に、ご紹介したいと思います。

今回の研究では、30例のDM患者さんにCGMと経口糖負荷試験(OGTT)を実施することができました。OGTTの結果から、正常型、境界型、糖尿病型に分類し、以下の検討を行いました。

各々のOGTT 2時間値における血清インスリン濃度は、正常型、境界型、糖尿病型の全てで、本邦の非肥満型対照群の既報告データに比して高い値を示しました。DM1の患者さんでは2型糖尿病とその予備軍の方に比べて高IRI値が続いている、すなわち、インスリン抵抗性があることが確証されたわけです。

CGMのデータを解析すると、注目すべき結果が得られました。DM1では、OGTT正常型7例中6例に、OGTT境界型15例中4例に低血糖が認められていたのです。低血糖が認められた例では、インスリンや血糖降下作用のある内服薬を用いていた例は一例もなく、低血糖は夜間・早朝のみならず夕食後にもみられていました。

DM1患者さんにとっては、低血糖は決して稀なことではなかったのです。インスリン抵抗性によるインスリン過分泌を反映しているものと考えられます。

さらに、1日における血糖変動の波形パターンを観察しますと、グルコース値が日中ほぼ同じ範囲で変動しているパターン、朝昼夕と徐々に上昇傾向にあるパターン、朝食後からそのまま下がらず高めのままで推移しているパターンの3つのパターンがみられ、この順序で耐糖能が悪化しているものと考えられました。CGMの波形により耐糖能障害の程度が判断できるのです。

我々は、以上の結果を踏まえ、さらに検査例を増やし、経時的な変化を観察することによって、DM1に特有な耐糖能障害を明らかにし、治療に役立てたいと考えています。