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Becker型筋ジストロフィーと精神疾患

森 まどか(国立精神・神経医療研究センター病院神経内科)

Becker型筋ジストロフィーをめぐる社会的困難について

皆様こんにちは。

私は神経内科医として国立精神・神経医療研究センター病院で成人の診療に当たっています。今回は私が最近行ってきたBecker型筋ジストロフィーの臨床研究の内容についてご紹介します。

Becker型筋ジストロフィーの患者さんとお話しした時、いじめを引き金に精神的な問題や悲しい体験をされている方が多い印象が漠然とありました。また、身体的障害が進行する過程で職場で大変な思いをされている患者さんや、実際にうつ病など精神疾患をお持ちの患者さんもいらっしゃいました。

そこで、Becker型筋ジストロフィーの患者さんが遭遇しうる社会的困難・精神疾患が、どの程度の頻度であるのかを神経筋疾患患者登録(Remudy)を通じ、アンケート形式で調べました。この類のアンケート調査としては驚くべきことに、なんと対象患者さん183名のうち134人と、7割近い患者さんがお答えくださいました。協会の方にもご参加いただいたことと存じますが、心から御礼申します。

以下に結果をご紹介します。

患者さんの中で、発達障害の診断を受けている方が10名いらっしゃいました。またなんと44%もの患者さんがいじめ被害を受けており、原因は身体的障害にあると答えておられる方が大多数でした。

さらに13%が不登校や暴力行為、自殺企図など、いわゆる青年期の「問題行動」の経験がありました。

労働年齢にある患者さんの7割に就労経験がありましたが、身体理由で就労できない患者さんが健常者より多く、身体理由での離職者もいらっしゃることから、就労支援がまだまだ足りていない状況が伺われました。

神経症やうつなどの精神疾患を持っている方の割合も健常人より多く、思春期のいじめや職場のストレスなどが関係している可能性が否定できません。一方、精神面の問題や発達障害は、脳で発現しているジストロフィンの変異によって起こるという可能性もあるかもしれません。

アンケート調査の結果を受け、私たちは患者さんの心理面や発達についての詳しい解析をするため、成人患者さんを対象に国立精神・神経医療研究センターの精神科と神経内科、放射線科が共同して心理検査や画像検査を行う臨床研究を行っています。

心理検査の結果からは、患者さんのうつ病スコアや不安スコアが非常に高く、適切な療養環境や社会的支援を整備する必要があることがうかがわれます。発達障害や精神病の頻度も、一般人口よりも多い印象がありました。

いじめや発達障害の問題は小児期からの早期診断や介入で患者さんに与える影響を軽減できる可能性があります。

精神疾患についての素因が、身体障害と無関係か、つまり、身体的な不自由がなかったら精神疾患になっていないかどうかについての証明は難しいのですが、一概に筋ジスの重症度と一致していない印象がありました。

現在はBecker型のみならず、Duchenne型筋ジストロフィーや女性保因者にも同じ問題がないか、研究の対象を広げて皆さまにご協力をお願いしております。ご興味のある方は、ぜひ国立精神・神経医療センター病院の神経内科外来を受診していただければと思います。

皆様のご参加をお待ちしております!

(注)国立精神・神経医療研究センターの臨床研究へのご参加を希望なさる方は、
代表電話番号(042-341-2711、平日9時-17時)から神経内科 森まどかをお呼びください。
用件は「ジストロフィノパチーの臨床研究への参加希望」とお伝えください。