ジストロフィノパチー患者介護者、女性ジストロフィン変異保有者の健康管理、介護上の問題に関する調査
石崎 雅俊(熊本再春荘病院 神経内科)
主任研究者:松村 剛(国立病院機構刀根山病院 神経内科)
石崎 雅俊(文責)(国立病院機構熊本再春荘病院 神経内科)
小林 道雄(国立病院機構あきた病院 神経内科)
橋口 修二(国立病院機構徳島病院 神経内科)
足立 克仁(国立病院機構徳島病院 神経内科)
橋口 修二(国立病院機構徳島病院 神経内科)
中村 昭則(国立病院機構まつもと医療センター中信松本病院 神経内科)
木村 円(国立精神・神経医療研究センター)
背景
近年、呼吸管理や心筋障害治療の進歩により
Duchenne型/
Becker型(DMD/BMD)筋ジストロフィー患者さんの予後が改善した。
一方、介護者の高齢化、長期化に伴う介護負担が問題となっており、介護者の健康管理、社会・心理的支援は患者さんやご家族のQOL維持に重要であると考えられる。
さらに介護者となりうる女性のご家族の中には、ジストロフィン変異を有している方が一定の割合でみられ、骨格筋障害や心筋障害を起こす可能性がある。
われわれは、ジストロフィノパチー患者介護者、女性ジストロフィン変異保有者の健康管理上の問題に取り組んでおり、これまでの検討を報告致した。
方法
- 本邦の現状を明らかにするため、全国遺伝子医療部門連絡会議加盟施設、Remudy登録患者さんの主治医にアンケート調査を行った。
- 本邦・海外の関連した研究についてまとめた。
結果
- 医療者側において、女性家族における発症リスクや生活指導について十分実施できていないことが明らかとなった。
その背景として「心理的負担に配慮して」「十分な情報がない」「時間的制約がある」といった意見がみられた(図1)。
また調査に関して、「心理的要素、社会的立場に配慮し、各部門が連携をとりながら慎重に調査を行うべきである。」といった意見も多くみられた。- 文献:
- 小林道雄ら、臨床神経 2016;56:407-412.
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徳島病院での22年間にわたるDMD患者さん母親検診の報告
女性ジストロフィン変異保有者と考えられた28例において、17.8%で明らかな筋力低下をみとめ、32.0%で心エコー異常をみとめた。無症状でも心エコー異常をみとめた例、心保護療法で心機能改善がみられた例があり、早期診断が重要である可能性が考えられた(図2)。- 文献:
- Adachi K et.al. Journal of the Neurokogical Sciences, 2017. [Equp ahead of print] DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j-jns.2017.12.024
海外報告例のまとめ
近年、心筋症、心臓MRIによる早期診断、介護負担に関する報告が増加傾向であった(図3)。
妊娠・出産、治療、予後に関する文献は乏しかった。
欧州を中心とした報告例では、ジストロフィン変異保有者における骨格筋/心筋障害の発症率は2.5-19%/7.3-16.7%であった。
遺伝学的に確定したジストロフィン変異保有者93例のまとめでは高齢であるほど心筋障害の合併率が高かった(表1)。
年齢 | 20歳未満 | 21-39歳 | 40歳以上 |
---|---|---|---|
心筋障害 | 20.0% | 26.7% | 53.3% |
(10文献93例のまとめより、※検出方法は文献によって異なる)
今後について
平成27年から筋ジストロフィーが指定難病に加えられ、男性だけでなく、女性ジストロフィン症患者さんも、診断、重症度基準を満たせば認定可能となった。
今後、健康管理の必要性、指定難病の対象となり得ることなど、正確な情報を患者・家族、医療スタッフ、保健師、難病相談員等への周知活動を行い、情報共有をすることが重要と考えられる。
われわれは、本調査を通じ、介護者、女性ジストロフィン変異保有者において、健康管理や社会的支援を促進し、患者さんやご家族ともに少しでも在宅生活を過ごしやすくなるように努力していきたい。
謝辞
今回の調査に関して快く情報提供にご協力してくださった全ての患者さんとそのご家族、医療スタッフの方々に深謝致します。
「保因者」という言葉について
従来からの「保因者」といった単語は、
- 病気の原因を有していると誤解されやすい
- 患者ではなく発症しないといった誤解されやすい
といった負のイメージがあります。
以上のような理由から、本稿ではジストロフィン遺伝子異常を有する女性患者を「女性ジストロフィン変異保有者」、発症女性患者を「女性ジストロフィン症患者」といった表現を使用しております。
今後、適切な用語の使用についても議論が深まることを期待しております。