筋強直性ジストロフィーの病態解明と治療研究(先天性筋強直性ジストロフィーにおけるマイオカインシグナル異常)
中森 雅之(大阪大学 医学系研究科 神経内科学)
筋強直性ジストロフィー(MyD)は成人で最も多い筋ジストロフィーで、わが国では約1万人程度の患者さんがおられると推計されています。MyDでは、筋強直(握った手を開きにくいなど)や筋萎縮といった骨格筋の症状のほか、心臓(伝導障害)や脳(認知機能障害)、眼(白内障)、内分泌器官(糖尿病)など、さまざまな臓器の症状があらわれます。MyDは、DMPK遺伝子のCTG3塩基繰り返し配列が異常に伸長することが原因とされています。また、この遺伝子から転写された異常なメッセンジャーRNA( 注1)が何らかの形で悪影響を及ぼすことが知られていました。しかし、MyDで最も重要な症状である筋萎縮の原因はこれまで解明されていませんでした。
今回われわれは、西野班研究班長の西野先生とともに、MyDのなかで特に筋症状の強い先天型筋強直性ジストロフィー患者さんの希少な骨格筋検体を網羅的に解析することにより、筋組織でのCTG繰り返し配列が長いほど、繰り返し配列近傍のCpGメチル化( 注2)が促進され、より多くの異常RNAが産生されることを見出しました。さらに、異常RNAにより骨格筋での分泌型生理活性物質インターロイキン6( 注3)の産生が亢進し、筋障害につながることを解明しました( 図1)。今回の研究成果により、長年未解明であった筋強直性ジストロフィーの骨格筋障害の原因が明らかになったほか、現在治療法のない同疾患に対して、インターロイキン6を標的とする新たな治療薬の開発にも期待がもてます。
用語説明
- 注1 メッセンジャーRNA
細胞の核の中にあるDNAから遺伝情報が写し取られたもので、核外まで運ばれてタンパク質を合成する情報を伝達します。 - 注2 CpGメチル化
DNAを構成する塩基のうち、シトシン(C)の次にグアニン(G)が現れるタイプの2塩基配列では、シトシンにメチル基が付加されることがあります。これをCpGメチル化とよび、周囲の遺伝子発現に影響を及ぼすとされています。 - 注3 インターロイキン6
サイトカイン(分泌型生理活性物質)のひとつであり、1986年に大阪大学で発見されました。骨格筋からも分泌され、代謝の調節や骨格筋の成熟、機能維持に関わるとされています。