ワンキーマウス試作報告【詳細】
神奈川県での例
平成12年5月12日
1. はじめに
肢体不自由者、殊に筋ジストロフィー患者を対象としたコンピュータ入力補助装置の試作を行ったので報告する。
2. 目的
単一のスイッチを操作することでマウス操作ができるコンピュータ入力補助装置を提供することを目的とする。試作を行い、実地試験をとおして以下の検討を行う。
- 操作方法の妥当性検証
- 無理なく効率の良い操作時間、タイミングの選定
- 追加機能の有効性
3. 仕様
- 1つのスイッチで操作するマウス(ポインティングデバイス)で、スイッチを押すごとにマウスカーソルの移動方向が90度(または45度)変わることで任意の場所へカーソルを移動できる。マウスの左右のボタン操作も同じ1スイッチで操作するほか別の専用スイッチでも操作できる。
- コンピュータとのインターフェイスにはUSBを採用し、Windows機だけでなく、従来の入力補助装置では対応が難しいAppleのiMac、NECの98NXにも対応できる。開発期間短縮のためUSBインターフェイス部分は市販のマウスに使われているICをそのまま用いた。コンピュータ側のドライバソフトはOS標準の物を利用するため、アプリケーションソフトとの「相性」による動作不良が起こりにくい。
- 操作速度など使用者のレベルに合わせた設定変更を使用者自身が行える。設定内容はコンピュータ側ではなく入力装置側に記憶されるため、コンピュータを複数が共用する場合などにそれぞれが使いやすい設定を維持できる。また、効率よいコンピュータ操作のためにボタンロック、ワープ、ナースコールなどの機能を盛り込んでいる。
- 外形寸法はW58xH18xD95(タイプA,L)重量110gである。電源はインターフェイスを通してコンピュータ本体より供給される。操作用スイッチは付属せず、使用者ごとに使いやすいスイッチを接続して使用する。
- 仕様、操作方法詳細は「ワンキーマウス取り扱い説明」参照のこと。
4. 試作と実地評価
試作機は、タイプA,L,Uの3種類、計6台を試作した。タイプAとLは内部で使用しているマウスコントロールICが異なる。タイプUは変換アダプタと組み合わせてPS/2、シリアル、ADBインターフェイスに接続できるようにした。
試作機のうち5台を実際に筋ジストロフィー患者に渡して試用評価を依頼した。評価者は、従来機種(HAマウス)を使用しているWindows使用の上級者2名、MacOS使用の上級者1名、コンピュータ初心者1名、筋ジストロフィー患者の支援を行っている作業療法士1名である。評価期間は3週間で、意見感想などはEメール等で随時聴取した。
5. 評価結果
良い評価を得た点
- ディスプレイ上に操作パレットなどが表示されないので画面が広々使える。
- 自分の使い慣れたスイッチをつなぐことができる。
- WindowsとMacOS両方で使える。
- クリック用のボタンが別に付けられる。
- ワープ機能はおもしろい。
- 左右ボタン同時押しはソフトとの組み合わせで有効に使える。
- ナースコール機能など多機能。
- ドラッグ操作がしやすい。
- 8方向へ移動できるのはおもしろい。
- 設定を自分で変えられる。
- 取り扱い説明が紙と電子的ファイル両方付いている。
改善の必要性を指摘された点
- 8方向移動は方向が直感的に把握しにくい。デフォルトは4方向が良い。
- パソコン(OS)の使い方をある程度知ってからでないと使いにくい。
- ワープ機能を連続して操作するとカーソルがいらぬところにジャンプする。
- 設定できるスピードの上限がもっと速くても良い。
- 設定ソフト
- 設定値読みとりに時間がかかる。
- 読みとり中に操作するとエラーになる。
- 長短などの設定値は具体的に秒であらわしたほうが良い。
- カーソル速度がスピードと加速2段構えでわかりにくい。
- 長押しでのキャンセルは誤操作しやすい。
- よく使う機能は設定ソフト無しで設定できると良い。
- 設定値を確認しながら設定したい。
- 設定を誤ると設定自体を行えず復帰できなくなる。
- 操作方法が特殊。
提案された機能
- 最近のマウスについているスクロールボタン機能。
- 短点時のブザー音。
- 確定時のブザー音。
- 誤操作の取り消し機能。
- 誤って右クリック操作をした後、簡単に解除できる機能。
- 右ドラッグ。
- 右ダブルクリック。
- 3ボタンマウス機能。
- アップルマーク(MacOS)やスタートボタン(Windows)にジャンプする機能
- 操作確認用のランプ。
- ブザーの音量調整。
- 設定値のリセット機能。
- 「チューチューマウス」と併用するとさらに使いやすくなる。
評価中発生した不具合
不具合 | 対応策 |
---|---|
マウスボタンスイッチが差し込んであると、ワンキーでのクリック操作ができない。 | 個別不良と思われる。調査中。 |
設定プログラムで設定値の読込み失敗。 | 設定プログラムの修正必要。 |
設定プログラムのインストールできない。 | 添付ディスクをハードディスクにコピーする場合は2枚を同じフォルダにコピーする必要がある。 |
6. まとめ
筋ジストロフィー患者は可動範囲や出せる力に制限を受けていても、素早い操作を正確に行うことは得意な人が多い。また、不随意の動きも少ないので本装置のような入力操作が向いていると思われる。
本装置は操作時にコンピュータ画面に操作パレットやメニューなどを表示しないので、画面を有効に使える反面、次に行うべき操作が何かを把握している必要がある。そのため、コンピュータ使用が全く初めての人より、ある程度使い慣れて操作効率の向上を希望する人、あるいはマウスやトラックボールを使用していたが扱いにくくなった人に向いていると思われる。
コンピュータ操作の熟練者からは、設定を自分で変えられる点は良い評価を得た。ただ、実際の設定ソフトウェアは多くの改善を必要とする。一方、初心者にとっては複雑な設定を行わずそのまま使えることが重要であり、出荷時の設定を見直す必要がある。
これら今回の評価試験で得られた意見を今後の機器開発に生かしたい。
7. 謝辞
本試作には日本筋ジストロフィー協会より入力補助装置の試作研究として援助をいただきました。感謝いたします。また、試用していただいた筋ジストロフィー患者と支援者のみなさんには、的確な評価と貴重なご意見をいただき感謝いたします。
8.連絡先
- 氏名:
- 福士 幸弘(ふくし ゆきひろ)
- 住所:
- 211-0066 川崎市中原区今井西町187冨士コーポ203
- TEL:
- 044-722-9091
- メールアドレス:
- yukihiro.fukushi@nifty.ne.jp