T.体育・スポーツ支援事業の概要及び各年度の経過報告

1.協会の概要


(1)発足から現在まで
 昭和39年3月、協会の前身である「全国進行性筋萎縮症児親の会」が結成されました。翌40年3月の第2回全国大会で「日本筋ジストロフィー協会」と改称しました。さらに、昭和43年2月には、厚生省より社団法人の認可を受け現在にいたっています。この間、“一日も早く”を合言葉に「根本治療法の確立」と「患者QOLの向上」を二大目標として会員が力を合わせて運動を続けてきました。
 現在の会員数は、3,000人余りで、患者とその保護者並びにかつて保護者であった者で構成されています。
 組織は、東京に本部を置き、全国を8地方ブロック(北海道・東北・関東甲信越・東海北陸・近畿・中国・四国・九州)に分け、その傘下に47支部(都道府県単位)を置き、本支部の連携を深めながら中央と地域の活動を推進しています。
 また、国立療養所入所者で結成している入所者の会(患者自治会や保護者会)とも共同して活動を推進しています。

(2)活動の内容
 筋ジストロフィー研究の促進支援、各種情報の収集と提供、入所・在宅患者の療養生活の改善を図り、また、患者・家族同士や社会との交流をすすめて、患者のQOLの向上を目指し、年に2回「全国大会・総会」と「患者と家族の研修会」を各地で開催し、情報交換や研修を行っています。その他、隔月ごとに会報「一日も早く」を発行し、筋ジストロフィーに関するニュースや各地の諸活動を掲載して情報提供しています。また、研修会や新しい研究の詳しい内容を「指導誌」として発行しています。
 平成4年から始まったパソコン通信『夢の扉』は外出のままならない患者にとって外部との交流の手段として、専門医による医療相談や会員同士の情報交換等、画期的な役割を果たしてきました。平成12年の「コンピュータ2000年問題」をきっかけにインターネットによるホームページ(http://www.jmda.or.jp/)を作り情報のオープン化をし、全世界に向けて情報発信を行っています。
 社会福祉・医療事業団からの助成事業として平成9〜11年に「患者の病状・体力に応じたパソコン活用」事業を行い、全国各地でパソコン指導者の養成と指導者によるパソコン講習会を行って来ました。平成10〜11年に「小児/筋・神経疾患児の子育て支援事業」として全国各地でセミナー及び指導パンフレット・療育手帳の作成を行い、介護をする保護者の支援を行いました。
 また、平成12〜14年に「遺伝子性筋疾患児を抱える親への子育て支援事業」として、セミナーやアンケートによる調査と「遺伝子性筋疾患児の呼吸ケア」のビデオ制作を行ってきました。
 今回、この「進行する筋ジストロフィー児・者の体育・スポーツ支援事業」は平成12〜14年に行われ、筋ジストロフィー児・者の身体機能の程度に応じて参加できるスポーツの調査・開発を行い、スポーツを通して社会参加や生きがいをみつけ、豊かな社会生活(QOL)を送るための一つの手掛りを提供するために行ってきました。

2.本事業の概要

 筋ジストロフィーは、徐々に筋肉が萎縮し、その機能を失っていく進行性の病気です。年を追うごとに姿勢の保持が難しくなり、移動や呼吸も困難になってくるため、車いすや人工呼吸器等を装着して生活を送っています。
 また、根本的治療法が確立していないため、一日も早く病気の解明が望まれています。
このように進行し、重度化する障害児・者のためのスポーツ支援については、記録を重視する障害者スポーツに比べて、軽視されてきました。
 しかし、スポーツは成長期にあるすべての児童生徒にとって心身の発達を促したり、その経験を通して自己の可能性を充分に発揮できるようにするためには欠かせないものですし、徐々に衰えていく現存機能を維持・改善させるためにも大切であるといえるでしょう。
 そこで本事業では、身体機能の程度に応じて参加可能なスポーツを開発し、その普及を通し社会参加できることを目的として、平成12年度〜14年度の3年にわたり研究・開発を行いました。

3.事業経過の報告


(1)平成12年度(第1年次)
 筋ジストロフィー児・者が通っている全国の養護学校と小・中・高等学校を対象に実態の調査を行いました。
特に小・中・高等学校への調査の依頼に際しては、保護者に事前に承諾書を送付することから始めました。
 協会支部長を通じて保護者210名に依頼したところ、71件の承諾を得ることができました。
 調査は、小・中・高等学校71校と養護学校23校に依頼し、小・中・高等学校からは67校(94%)、養護学校からは23校(100%)から回答が得られました。
 調査内容については、以下のとおりです。
@小・中・高等学校へ通う筋ジストロフィー児童・生徒の体育への参加状況
A養護学校において開発・工夫している運動(スポーツ)種目
B養護学校における対外的なスポーツ活動への参加状況
 調査結果は、各担当プロジェクト委員が分析をし、委員会に報告しました。
 今回の小・中・高等学校への調査結果では、筋ジストロフィー児が地域の小・中・高等学校に通い、さらに体育の授業に参加することは、容易なことではないということを裏付けるものでありました。
 病気が進行性のため、特に年齢が上がるにつれて参加することが困難になってくることも明らかになりました。
 体育の授業に参加困難な生徒に対する小・中・高等学校の対応は、安易に他の授業やリハビリテーション的な内容等へ振り替えるということではなく、いろいろと積極的に体育に取り組もうとしている現場の姿勢が読みとれました。
 養護学校で開発・工夫しているスポーツは、64種目も寄せられ、各種目で工夫している点をみると、学校ごとに大変多様であることがわかりました。
 また、養護学校における対外的なスポーツ活動への参加状況については、他校との交流等は比較的少ない状況がみられました。
 しかし、現実的な問題として、交流の機会をもつことはたいへん望ましいことですが、遠征することについては障害の重さによって困難であることなど、課題が多いこともわかりました。
 筋ジストロフィーが進行性で身体機能が低下する疾患であるため、これまでの障害者スポーツ・体育とは異なる工夫が求められるでしょう。調査を通して各学校が、それぞれに工夫を凝らして実施している内容を把握することができたことは、大きな収穫でした。
 この結果を踏まえて、冊子『筋ジスだって挑戦しよう!!スポーツに』にまとめ、実態調査の協力校のほか、全国の筋ジス患者、その関係者・関係団体に配布しました。

(2)平成13年度(第2年次)
 前年度事業でまとめた資料をもとに、
@筋ジストロフィー児・者の心身の発達をはかり、その経験を通じて自己の可能性を十分に発揮させること
A筋ジストロフィー児・者の現存機能を維持改善させること
B身体機能の程度に応じて参加可能なスポーツの開発や、障害のない人とも一緒にプレーできるようなルールの工夫をすること、競技内容を提案すること
 以上の3点を考慮してどのようなスポーツを開発すべきかを検討しました。
 実際には、筋ジストロフィー児の多く在籍する養護学校など4ヶ所(国立療養所松江病院、徳島県立鴨島養護学校と国立療養所徳島病院、千葉県立四街道養護学校、埼玉県立蓮田養護学校)に開発委員会を設けて、身体機能の程度に応じたスポーツ種目のルール、用具等の開発を行いました。
 また、運動の効果や運動負荷の状態を調査するために、運動中の心拍数や、活動量及び血中酸素濃度等を測定し、解析しました。

(3)平成14年度(第3年次)
 3年間のまとめとして、これまでプロジェクト研究委員会で研究、工夫した体育・スポーツへの取り組みの手引き集と、筋ジストロフィー児・者の身体機能の程度に応じたスポーツを紹介し、普及させるためのビデオの制作を行いました。
 手引き集については、主にプロジェクト研究委員が執筆を担当し、第1年次の実態調査で養護学校において開発・工夫している運動(スポーツ)種目については、再度対象養護学校に執筆を依頼しました。
 ビデオについては、「ゲートボール」、「電動車椅子サッカー」、「グラウンダーボール」、「水泳・水中運動」の4種目を撮影し、各種目10分計40分のビデオを制作しました。
 手引き書は、養護学校、全国の筋ジス患者、その関係者・関係団体に、ビデオは、養護学校、協会各支部に配布することとしています。



平成12年度報告書『筋ジスだって挑戦しよう!!スポーツに』

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