体育・スポーツのすすめ
プロジェクト研究委員会 副委員長 河原 仁志

 「共生」この言葉がこれからの世界を変えていくと信じています。つまり社会は様々な人々で構成されており、それぞれの個性を認めながら助け合って生きていくものだという意味です。私は小児科医であり、子どもたちや親に向けて話しをする機会も多く、できるだけたくさんの方に理解していただくためにこの言葉を「一緒にできるってうれしいね」と説明しています。
 共生を実現するためにスポーツは適しています。スポーツは、悔しさや嬉しさを共有する場面が自然に繰り返されます。ルールという共通の約束を守るため協調性が育ち、様々な障害の克服意欲・工夫が生まれます。体育はそのスポーツへの入り口として、とても大切な役割を持ちます。
 医学的には、スポーツ・体育を行うことは運動機能の維持のみならず、機能の発達を促します。水泳を例に取れば、地上で自力移動が不能でも、水中では浮力を利用すれば移動が可能になります。全身を動かすことにより、関節が動きにくくなることを予防します。
また水中で息を留めるための深呼吸は、胸郭の動きを活発にします。その他のスポーツ・体育でも同様な効果が得られると考えられます。
 しかし、注意しなければいけないのは、筋ジストロフィーは進行する病気であるという事実です。障害克服のための訓練的な考え方は、本人に苦痛をあたえるばかりか、危険な目に遭わせてしまうおそれがあります。特に、運動のやりすぎによる筋肉痛は機能低下の原因になりますし、運動量に呼吸機能や心機能がついていけなくなる呼吸不全・心不全の出現、そして転倒や衝突による外傷などの危険をできるだけ排除することが必要なことは言うまでもありません。
不整脈により危険な状態になる場合もあります。こういったことを予防するための医学的な配慮はとても大切になります。
 この度、日本筋ジストロフィー協会の「進行する筋ジストロフィー児・者の体育・スポーツ支援事業」に関わらせていただきました。この企画はまさにタイムリーで、協会関係者の慧眼に驚かされました。プロジェクト委員は医師と教師の連合チームで、委員会の度に白熱した議論が繰り返されました。議論内容の中心は「体育授業を、参加するための工夫をせずに安易にリハビリ訓練と称するストレッチなどに置き換えていないか」「安全にできる医療的な基準を示して欲しい」という2点にあったと記憶しています。
 スポーツ・体育は楽しい。そして、それを皆で行うことはうれしい。この「楽しく、うれしいこと」を続けていくのが重要です。この事業の成果がスポーツ・体育を通して「共生」のために役立つこと祈っています。

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