体育・スポーツの意義と交流の推進
プロジェクト研究委員会 委員長 山本 昌邦

 障害者のスポーツは、パラリンピック等の国際的な競技大会、全国障害者スポーツ大会等の国内の競技大会をはじめ、年々盛んになるとともに、一般の人々の理解と関心が高まってきています。また、養護学校等の体育の授業などにおいても、各種のスポーツ種目が取り入れられています。
 体育・スポーツは、障害の有無にかかわらず、成長期にある子供たちの身体的な発育・発達とともに、知性や情緒、社会性などの精神的な発達にとっても不可欠なものです。
筋ジストロフィー児・者のように障害のある場合の体育・スポーツは、これら一般的な意義のほか、身体機能の維持・改善や障害を克服しようとする意欲の向上を図るなどという意義があります。
 また、生涯にわたってスポーツに親しむ態度を育成することは、障害児・者のQOLを高める上で重要です。これは、必ずしも自分でスポーツを行なうだけでなく、見て楽しむという側面も含まれます。例えば、肢体不自由養護学校高等部のある生徒は、体育の授業でサッカーのルールを学んでから、それまでは関心のなかったサッカーに興味をもちはじめ、テレビの観戦を通してサッカーに親しんでいます。
 また、事故のため下肢障害となり車いすの生活を余儀なくされたある青年は、強い衝撃を受けて生きる意欲を失いかけましたが、リハビリの一環として始めた車いすバスケットボールに興味をもち、積極的に練習に取り組むようになるに従い、自己の障害を徐々に受容できるようになり、強く生きようとする意欲をもてるようになりました。やがて、日本代表の選手となるまでに上達し、本人にとって車いすバスケットボールは、その後の人生に欠かせないものとなりました。
 ところで、従前は障害のある者とない者が共にスポーツを楽しむ機会は多くありませんでしたが、近年になって、学校における交流教育の推進やノーマライゼーションの思想の普及等に伴い、スポーツの交流も盛んになってきています。この場合、障害の有無にかかわらずスポーツを共に楽しむためには、ルールや用具の工夫などが求められます。すなわち、あらかじめルールがあってそれに参加者を当てはめるのではなく、障害の軽重にかかわらず自己の力を発揮して楽しめるルールづくり、使いやすい用具の開発などが必要となります。
 さらに、スポーツの実施に当たっては、参加者の身体機能に応じた保健・安全面の配慮が大切です。このうち、保健に関しては、運動負荷の種類・程度・持続時間等を適切にし、負担過重とならないよう留意する必要があります。また、転倒や衝突等による傷害を防止するなど、安全管理に努めることも極めて重要です。
 本書は、以上述べてきたような趣旨に基づき、既成の概念にとらわれない新しい発想で開発・工夫されたスポーツ種目を紹介し、筋ジストロフィー児・者が個々の身体機能に応じてスポーツに参加し、障害のない人々と交流するとともに、障害の軽重にかかわらず共に楽しめるスポーツ活動が展開されることを目指して作成されました。
 全国の養護学校はじめ、小・中・高等学校、医療施設等において本書の内容を十分参考にしていただき、筋ジストロフィー児・者の体育・スポーツが一層充実するとともに、スポーツによる交流がさらに推進するよう望んでいます。

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