筋疾患児の子育て Q&A
【リハビリテーション】
Q29:筋ジストロフィーのリハビリテーションはどうして必要なのですか。
A:筋ジストロフィーを根本的に治癒させる治療法は、残念ながら未だに見つかっていません。ということは、筋ジストロフィーと診断されたら何もすることがなく、病気の進行をただ待つしかないということでしょうか。決してそうではありません。何もしないのと比べたら、したほうが病気の経過に断然よいものがあります。それが、リハビリテーションです。では、リハビリテーションによって病気の経過は具体的にどんな影響をうけるのでしょう。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの子どもを例にとり、説明しましょう。

1.リハビリによって四肢・体幹の変形・拘縮を予防し運動機能を維持できる。

 デュシャンヌ型筋ジストロフィーの子どもが、もう歩けなくなる頃の特徴的な立位姿勢を図2に示します。横から見ると股関節と膝関節が曲がっています。足関節は底屈(足裏の方に曲がること)、踵を浮かせて、爪先で立っているのが特徴的です。そしてバランスをとるようにお腹を大きく前に突き出すような姿勢をとっています。正面からみると、股関節、膝関節、足関節の曲がりには左右差があり、体重を一方の下肢だけで支える「休め」の姿勢になっています。いつも体重を支える足が決まってしまい、反対の足に体重をかけることができないのが、歩けない直接の原因のようです。関節が曲がったままの状態になり変形してしまうことを、関節の拘縮といいます。図2の子どもは、股、膝、足関節に拘縮が起こり、その拘縮が左右対称でないため歩けなくなっているのです。もし、この関節の拘縮と変形、そしてその非対称がリハビリにより予防できれば、この子の歩行可能期間は少なくとも数ヶ月から、数年は延長できると考えられます。
 歩行ができなくなり車いすの生活になると四肢の変形・拘縮に加えて体幹(胴体のこと)が大きく変形し、座位がとれなくなるなど日常生活活動が大きく制約されてしまうことがあります。また体幹の変形は肺などの内臓の機能にも影響を及ぼすため、体幹の変形予防のためにもリハビリは必要です。
 このようにリハビリの第一の目的は四肢・体幹の変形・拘縮を予防することであり、それによって運動機能を維持し、生活の自立期間を延長させることです。


図2

2.リハビリにより筋肉の廃用性萎縮を防ぐことができる。
 筋ジストロフィーとは筋肉が自然に壊れて行く病気なので、筋力をつけようと筋力トレーニングをしても効果はそれほど期待できません。無理なトレーニングは筋肉の崩壊をむしろ助長することにもなりかねません。それならば、何も運動せずに安静を保つことが病気の進行を防ぐことになるのでしょうか。決してそうでもないのです。筋肉は、動かさないと萎縮してしまいます。これを廃用性萎縮といいます。歩行していた筋ジストロフィーの子どもが、冬休中ほとんど歩かずコタツですごしていたら、休みが終わったら歩けなくなっていたといった話があります。老人と同じで、筋ジストロフィーの子どもは廃用性萎縮を起こしやすいのです。リハビリによって適度の運動を行い、これを防がなければいけません。

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Q30:在宅で行えるリハビリの方法を教えてください。起立台はいつ必要ですか。
A:デュシェンヌ型筋ジストロフィーの子どもを例にとり、在宅でのリハビリについて説明しましょう。

1.幼児期の訓練について
 筋ジストロフィーと診断されるのは、2〜3歳頃から小学校入学前頃までです。この時期は転びやすかったりジャンプができないなどの症状は認められるものの、平坦な場所なら自由に歩けています。この時期には特別な訓練は不必要で、日常の活動が訓練になっていると思われます。しかし、次項で述べる下肢の3つの基本的ストレッチ体操は、早期から始めて習慣づけるのがよいと思われます。ぜひ始めてください。

2.歩行困難が目立つ時期の訓練
 小学校へ入学するころから低学年にかけて、股関節、足関節、そして膝関節と関節の動く範囲(関節可動域)に制限がみられるようになります。股関節はお尻の方に伸びにくくなり、やがて前の方へ曲がってきます。足関節は足背の方に伸びにくくなり、やがて足底の方へ曲がったままとなります。膝関節も曲がったままとなり、真っ直ぐに伸びなくなります。関節が曲がったままの状態になることを関節の拘縮といいます。関節の拘縮がみられる頃になると、踵を浮かせて爪先だけで歩く姿をよく見かけるようになります。拘縮がさらに進むと歩行は困難になり、お腹を前へ突き出すようにして体を左右に揺らしながら歩くようになります。歩行をできるだけ長く維持するには、この関節の拘縮を予防するためのストレッチ体操を毎日行うことが大切です。そのやり方の詳細は次項で説明します。起立台訓練はふつうこの時期から開始されます。起立台訓練とは図3に示すような台に胸部、膝をベルトで固定して起立することにより、股、膝、足の関節を伸展させ拘縮の進行を予防するものです。この時期になると多くの子どもに、体重を一方の下肢(利き足)だけで支えた「休め」の姿勢で起立する癖がみられるようになります。この非対称の姿勢(前項図2参照)は、歩行不能になる時期を早めることにもつながり、さらに骨盤の傾斜・捻れを招き脊柱変形の原因となると考えられます。この骨盤の傾斜・捻れを矯正しする目的で次項で述べる腹臥位訓練も開始するとよいでしょう。


図3

3.車いすの生活となってからの訓練
 車いすの生活になると、股関節や膝関節の拘縮はさらに進行しやすくなります。ストレッチ体操を毎日行い、起立台も可能であれば毎日行うのがよいのです。車いすの生活になると前述の骨盤の傾斜、捻れが進行し脊柱の変形が急速に進行することがあります。特に背中を丸くして体重を片方のお尻だけにかける座り方をする癖のある子どもの場合は、体重をかけているお尻の側が凸になるように背骨が曲がってきます。この骨盤の傾斜・捻れを予防ないし矯正する目的で、次項で述べる腹臥位訓練を毎日行うとよいでしょう。車いす生活となってからの数年は、急速な身体の変形が起こりやすい時期なので厳重な注意が必要です。主治医や理学療法の先生と密に連絡をとり、子どもにあった車いすや装具を使用することが大切です。

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Q31:ストレッチ体操をくわしく教えてください。
 在宅でやれる下肢の屈曲拘縮予防のための3つの基本的なストレッチ体操を、図4、5、6に示してあります。これらは、子どもが自分ひとりでやる体操ではなく、親が他動的に子どもの下肢を動かして伸ばしてやる(ストレッチする)ものです。この3つのストレッチは幼児期より開始するとよいでしょう。たとえば就寝前の10分というように時間を決めて、毎日この体操をする習慣をつけるようにしましょう。

 図4は股関節屈曲拘縮予防のためのストレッチです。股関節の屈曲拘縮が進むと、両下肢を閉じて腹臥位になった場合、図7aのような姿勢になってしまいます。お尻が後ろに突出し、お腹が床に密着せず床との間に隙間ができます。この場合は、両下肢を閉じて腹臥位の姿勢を保つ訓練をすることです。腹臥位姿勢をとるだけでも股関節はお尻の重さで伸ばされるため、屈曲拘縮の進行を予防する効果があります。さらに、股関節を伸ばすにはお尻を床方向へ押すか、お尻の上に砂嚢などの重しを起きます。
(図7bc)筋ジストロフィーの訓練のなかで、最も簡単で、しかも重要なのは、この両下肢を閉じて腹臥位になる訓練ではないかと私は考えています。
図4 股関節のストレッチ
仙骨部を片手で押さえて、もう一方の手で
大腿部を後方(お尻の方)へ伸展させる
図5 腸脛靱帯のストレッチ
お尻を床に押しつけるようにしながら、
片手で膝を曲げる。
図6 足関節のストレッチ
片手で下腿を固定、もう一方の手でアキレス腱を伸ばすように足関節を背屈させる。

 図5には腸脛靱帯の短縮予防のためのストレッチの方法を示しました。腸脛靱帯とは腸骨から脛骨上部にかけての大腿の側面を覆う筋膜です。
これが短くなってくると図5の方法でお尻を床面に押しつけるようにしながら膝を曲げますと抵抗があり、子どもは大腿前面の膝小僧の上あたりが痛いと訴えます。
痛みが出現する場合には、痛くなる直前で膝の屈曲は止めるようにしましょう。
腸脛靱帯の短縮が進むと、両下肢は股関節で外側に開いた状態になり、両下肢を閉じて両膝を合わせることが困難となってきます。
 図6は足関節の底屈拘縮を予防するためにアキレス腱を伸ばす体操です。足関節を足背の方に曲げてアキレス腱を伸ばすようにします。
子どもによっては、無理に力を入れてアキレス腱を伸ばす運動に抵抗する場合があります。力を抜いてリラックスさせた状態でやるようにしましょう。
仰臥位よりは腹臥位のほうがリラックスしやすいので、腹臥位でやってもかまいません。足関節の拘縮が進行すると、子どもは立たせると爪先立ちとなり、踵を床につけて立つことができなくなってしまいます。
 股関節の拘縮、腸脛靱帯の短縮、足関節の拘縮が進むと、膝関節の屈曲拘縮がみられ、膝が真っ直ぐに伸びなくなります。

図8は膝関節のストレッチ体操の図です。図のようにして膝が真っ直ぐ伸びるかどうかをいつも確認し、伸びにくいときは痛みが出る手前まで伸ばしてください。
 これらのストレッチ体操をひとまとめにしたのが起立台訓練と考えてよいと思います。

図7 股関節の拘縮と腹臥位訓練
a 股関節拘縮のある子どもの腹臥位姿勢。×印はお腹と床の間にできる隙間を示す。
この姿勢をとるだけで、股関節拘縮進行予防の訓練となる。
両下肢は開いてしまう傾向にあるので、両下肢を閉じて腹臥位訓練をしましょう。
b 股関節拘縮のある子どもの腹臥位訓練。
お尻を床の方へ押してもらい、股関節を伸ばしましょう。
c 腹臥位訓練でお尻と下腿後面に砂嚢をのせ、股関節と同時に膝関節の伸展も行っている。

図8 膝関節のストレッチ
片手で大腿部を固定して、もう一方の手で下腿を持ち上げ膝を伸ばす。

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Q32:歩行を維持するためにはどのような工夫が必要ですか?
A:歩行を維持するための工夫として以下のようなことが挙げられます。

1.四肢・体幹の変形・拘縮を防ぐ
 四肢・体幹の変形・拘縮があると、筋力がかなり残っていたとしても、立位のバランスがとれなくなるため歩行ができなくなってしまいます。変形・拘縮を防ぐには、前項で説明したストレッチ体操や起立台などの訓練が極めて大切です。

2.筋肉の廃用性萎縮を避ける。
   筋肉は使用しなければ萎縮して行きます。筋ジストロフィーの子どもの場合でも適度に筋肉を動かすことが、筋力を維持するために必要となります。毎日、疲れない程度の距離を歩くことが歩行を維持する上で重要と考えられます。夏休みなどの長期休暇の間、家の中にこもってしまいほとんど歩行しなかったりすると、歩行能力が極端に低下することがあります。また私は、下肢の骨折でギプス固定されベッド臥床が続いた後に、歩行が失われてしまった何人かの子どもをみております。転倒などによる下肢の骨折には充分気をつけましょう。

3.筋肉の酷使による崩壊をさける。
 何人かの筋ジストロフィーの子どものお母さんから「両方のふくらはぎが痛くて急に歩けなくなった。どうしたらよいでしょう。」という電話をいただいたことがあります。このような場合はたいてい運動会や遠足の翌日のことが多いようです。病院に来てもらいますと、ふくらはぎが熱をもって腫れて固くなっています。ふつうの子どもには特に問題ない程度の運動でも、筋ジストロフィーの子どもにはかなり過酷な運動になっており、その結果、急激な筋肉の崩壊がおこり、このような筋肉の腫れと痛みが出現するのでしょう。筋肉の急激な崩壊を防ぐには、痛みがでるほどの過酷な運動は避けることが大切と思われます。この筋肉の腫れと痛みは通常は数日の安静で回復しますが、このようなことを何度も繰り返すことは、避けなければいけません。

4.肥満に気をつける。
 筋力が弱いのですから、体重が重くなりすぎると歩行は困難になって来ます。太りすぎないように食事に気をつけることが大切です。

5.長下肢装具装着による装具歩行
 筋力低下と下肢関節の拘縮が進行し自力で起立や歩行ができなくなった時に、長下肢装具を装着しての歩行訓練が行われます。関節拘縮のさらなる進行の予防、立位を維持し体幹変形の出現を予防するなどの効果を期待しての訓練です。この訓練のもうひとつの効果は、「自分は装具さえあれば歩けるのだ」という精神的満足感を得ることができる点でしょう。しかし、装具をつけての歩行であり、実用的な歩行ではありません。この訓練をどこまで積極的に勧めるべきなのかについては、議論のあるところかと思います。

6.副腎皮質ホルモンの服用
 「筋ジストロフィーの治療に副腎皮質ホルモンという薬が有効であり、これを服用すると歩行期間の延長が可能である」という報告があります。本邦でもこの薬を処方する医師が増えています。問題は、この薬には多くの副作用がありうること、筋ジストロフィーの治療薬として一般には認められていないこと、効果があるとしても短期間であり根本的な治療薬にはなりえないことです。
(大村 清)

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Q33:幼児の時期から楽しんでできるリハビリテーションを教えて下さい。
A:
1.リハビリテーションの移り変わり
 2001年に、世界保健機構(WHO)の「機能、能力低下、健康の国際分類」(ICF)が、新しくなりました。20年ぶりにリハビリテーションの考え方が変わったのです。本人と家族が、病気によって影響される身体や心理の状態を理解します。病院のスタッフや地域の人達とチーム作りをし、環境や制度を調整します。個性や経験、教育、趣味や友人を大切にして、社会参加をします。社会参加といっても、いろいろなやり方があります。外に出なくてもできることもあります。  筋ジストロフィーなどの神経筋疾患では、運動能力だけでなく、呼吸、心臓、消化管、中枢神経、心理などに、気をつけます。短期や長期の目標をたてて、バランスのとれたリハビリテーションをします。

2.能力に目を向けるかかわりの問題点(作業療法士からのアドバイス)
 これまで、障害をもつと、その障害をいかに克服するかという取り組みに全力投球してきました。いわゆる“訓練”により、日常生活動作の獲得を図ることが、障害を持つ人々の自立に結びつくものと考えられてきました。しかし、障害を実際に効果が少ない長期の“訓練”に縛られることが、QOLに結びつかないといわれるようになりました。自力で移動できる手段はあっても、自分でどこに行きたいのか、その場所を決定できないケースもあります。他人の決めた場所に行くことだけでは、果たしてどれだけ楽しいといえるでしょうか。どんな状況でも、“本人が興味をもつ興味”を引き出すことができるように、小さい時からいろいろな体験をしていきましょう。

3.できることを育てましょう、何をしたいのかを言えるようにしましょう
 残された機能を最大限発揮することは大事です。代償動作も学びます。そのままではできないことでも、どうしたら最もスムーズにできるか考えましょう。物や器械は何をどのように利用できるのか、経済的にできるように皆で工夫します。介助を頼む時は、どんな内容をどんな風にして欲しいのか、コミュニュケーションをしっかりできるようにします。将来介助する人は、家族、先生、友人、通りかかった人、医療スタッフなどいろいろです。お互い気持ち良い関わりができるように、人間性に磨きをかけておきましょう。

4.具体的なメニュー
 家族やお友達や先生と、遊びや勉強など普段の生活の中でいろいろやることが全てリハビリテーションです。楽しみ、鍛え、我慢し、ルールを守り、競争し、汗をかいて、大声をあげ、スリルを味わって遊んで下さい。  以下に挙げた具体的な遊びも特別なものではありません。ただ、皆さんが普段やっている遊びや生活動作に沢山の大事な動きが含まれていることに気付いて下さい。本人がやりたいことをやった時に、筋力もつき、発達もするのです。例えば、親の膝の上でじゃれ合い、ふわふわのクッションに腹ばいや寝そべったり坐ったり、お風呂で水遊び、ハンドタオルやスポンジを絞って指のエクササイズ、水泳、水鉄砲、シーソー、電動自動車(座位保持に市販のプラスチックラック取りつけやアクセルやブレーキを少し改造することも有用)、布団のトンネルくぐり、犬や猫など動物、動くおもちゃ(アイボのようなものや電動のぬいぐるみ)、ボール遊び、風船遊び(プラスチックのハエタタキや軽いラケットで風船バレー)、少し大きなボールに身体を乗せてゆっくり転がったり支えて坐ったり、缶倒し、輪投げ、サクランボ、いちご、ブドウなど木の実狩り、栗やどんぐり拾い、手で影絵、手でサインを作って合図、粘土や曲げ伸ばしで変形できるループ細工、積み木、木札でドミノ倒し、オセロゲーム、お絵描き、立ってピアノやオルガン演奏、もちろん大好きなテレビゲーム。体中、頭も心もフル回転で動かして、代償動作も習得しています。

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Q34:身体の変形が心配です。予防法を教えて下さい。
A:筋力が低下して、動きが少なくなると、関節が通常動ける範囲より動きにくくなります。関節が“かたく”なったと感じるようになります。そのまま自発的な動きが減ったまま放置しておくと、関節が曲がった位置で固定してしまいます。特に曲げる筋肉と伸ばす筋肉などのどちらかが先に弱くなることで、ある方向に傾いたようになります。これが、変形のもとです。踵に体重かける機会が減るとよく見られるのは、アキレス腱が伸びにくくなって、足首がつま先立ちをしているようになることです。
 このような関節の変形を防ぐためには、自力の動きや、体重をかけたり、介助者や器械で関節を動かしたり伸ばしたりすることです。
 例えば、子どもでも必要なら、木馬で、特に前に体重をかけて、アキレス腱を伸ばして下さい。起立をしながら、ピアノを弾いたり、立ってちょうど良い高さの机の上で遊んだりするのも効果があります。しかし、本人がやりたがらず、痛みが強いようなら、無理をしないようにします。車いすでもいすに坐っていても、足の裏をピッタリ台の上に当てて下さい。窮屈でない靴でかかとを90度にすることも大事です。足先がぶらんと下に向いて宙に浮いている時間は最小限にします。
 また、いすに坐る時は足台の上にクッションを置いてふくらはぎを載せて、膝を伸ばして下さい。うつ伏せ寝でテレビやビデオや本を見たり、なるべく股関節や膝も伸ばすように努めます。下腿の血行が良くなります。車いすに乗ったままできる器械による下肢の他動運動(MOTOmed:エムピージャパン株式会社)は抵抗もスピードも時間も自分で調節できます。
 介助者の手で、関節拘縮予防のため、理学療法士から指導された運動療法(ホームプログラム)もあります。発達や個人のスケジュールに良く合ったホームプログラムを、定期的な外来フォロー(進行性の病気で3ヶ月に一回など)をしながら行います。お風呂上がりなどリラックスしている時だと動かしやすいことがあります。
 脊柱の曲がりについては、軟らかい素材のコルセットや、坐位保持システムをうまく利用して姿勢を良くして進行を遅らせるようにしましょう。手術についても聞いてみたい方は、主治医に尋ねて下さい。

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Q35:呼吸のリハビリについて、いつ頃から開始したらよいのですか?また方法を教えて下さい。
A:手足の関節だけでなく、肺と胸郭の可動性と弾力を保ち、肺の健康を保ちます。
 大きく息を吸って吐く、息をいったん溜めてから一気に吐き出すようなことなら、何でも呼吸リハビリテーションになります。例えば、赤ちゃんが泣く、大声を出す、笑う、あくびをする、幼稚園や学校でスピーチする、歌を歌う(カラオケでも)、ストローを吹く、シャボン玉や風船を膨らませる、笛やラッパやピアニカなど吹奏楽器、たんぽぽの綿帽子を吹いて飛ばす、など、普段の生活でも呼吸リハビリになっていることが沢山あります。
また、伸びをしたり、身体を捻ったりして胸のしなやかな動きを保ちます。適度な運動をして、それに耐えるように心肺機能をきたえます。
 呼吸機能にもっと気をつけた方が良い場合は、主治医や専門医による評価と処方を受けて呼吸リハビリテーションを行います。「筋ジストロフィーの呼吸ケア」のビデオは、このような呼吸リハビリテーションを紹介したものです。主治医や専門医に相談して適切な方法を選びます。
 以下に、神経筋疾患の呼吸リハビリテーションの基準を示すので、参考にして下さい。数字は12才以上で指標になります。
1、肺活量、咳の最大流速(PCF)、酸素飽和度(SpO2)、終末呼気炭酸ガス(EtCO2)を、定期的に測定します。
2、肺活量が2000ml以下(または、%肺活量が50%以下)になったら、救急蘇生用バッグとマウスピースで、強制吸気による息溜め(エア・スタック)を行い、最大強制吸気量(MIC)を得ます。
3、PCFが270L/min以下に低下したら、徒手による介助咳を習得します。
4、徒手介助咳によるPCFが270L/min以下になったら、風邪をひいた時にパルスオキシメーターを使います。必要時に、非侵襲的換気療法、器械による排痰介助(MAC)を行います。
5、SpO2が95%より下がったら、非侵襲的人工呼吸と徒手や器械による介助咳を行って、
SpO2を95%以上に保ちます。
6、気管内挿管をした時は、酸素を使わなくてもSpO2が正常化し、高炭酸ガス血症を認めなくなってから抜管します。
7、症状を呈する慢性肺胞低換気(夜に良く眠れない、夜に何度も目覚める、朝の頭痛、やせ、集中力が低下、学習障害、学業成績低下、記憶障害、昼間に眠い、疲れる、悪夢を見ることが増える、痰がからみやすい、息苦しい、ドキドキする、脈が速い、発汗が多い、顔色や唇の色や爪の色が白っぽかったり紫色がかっていたりする、食べ物をのみこみにくい、腹部不快や便秘)に対しては、適応により、夜間の非侵襲的換気療法を行います。必要に応じて昼間にも非侵襲的換気療法を追加します。
8、介助によるPCFが160L/min(エア・スタックを併用しても)になったり、気道確保ができない場合は、気管内挿管をする前に、気管切開をどうするかインフォームドコンセントをします。

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Q36:車いすや、電動車いすはいつからどのように使用するのですか?
A:誰でも、赤ちゃんの時にベビーカーや乳母車を使ったことがあるでしょう。歩行が遅れる例で、しばらくは、ベビーカーを移動手段としてそのまま利用することがあります。また、ベビーカーに坐位保持などの改造をして、使い易くすることもあります。
 ある程度大きくなってから歩行がうまくできない場合、友達や家族との行動で遅れが出たり、転倒の危険が高い時、数百メートル歩くと疲れる時、自力で駆動できるなら、手動車いすを使用します。短い距離の移動には不要でも、ショッピングセンター、学校、職場での長距離の移動、屋外で平坦でない土地の移動など、限定した目的での使用から導入をすすめていくことが理想的です。デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは、8歳〜12歳(だいたい10歳前後)に使うかどうか考えるようになります。
 手動車いすを駆動する力が低下している場合、友達や家族との行動の中で遅れが出たり、遠くへ行くのをためらったり楽しめなかったりする時、疲れ易い時、心臓の問題があって運動負荷が好ましくない時などに、電動車いすの適応を考えます。デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは、中学生から高校生の頃に、脊髄性筋萎縮症タイプ2や福山型先天性筋ジストロフィーでは、幼児期から使うことが好ましいことがあります。
 本人が電動車いすに変更することに、心理的に抵抗がないか、気をつけて接して下さい。手動電動の切り換え可能なもの、ジョイスティックではなく、タイヤを触ると電動補助になるものもあります。スピードが出るので、坐位保持をきちんとします。リクライニングや、足の挙上なども電動で操作できると有用なことがあります。最近、下肢の拘縮予防や視点の高さ、心理面のメリットから、起立のまま走れる電動車いすも特に米国で増えています。
 身体的や知的面で、自己の操作・運転が不可能だったり危険な場合、介助用車いすを使います。
 筋ジスの車いすの処方の経験がある医師や、理学療法士、作業療法士、義肢装具や車いすの業者、医療ソーシャルワーカー、メインテナンスには臨床工学技士も関わり、本人、家族、先生や周囲の人や環境にとって使いやすい車いすを作ります。屋外用、屋内用など、環境や用途に合わせて、経済的に利便性を高める方法を工夫します。シーゲル先生は、「車いすを、生活活動を一層展開するパスポートとして活用させるため、あらゆる努力が必要です」と書いています。

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Q37:骨折が起こりやすいと聞きました。どうしてですか?
A:
骨折を防ぐ方法はありますか?
 筋力の低下で動きが少なくなると、骨粗鬆症になり易くなります。また、筋肉の量が減ると筋張力が弱まり、骨萎縮も起こります。骨のミネラルや代謝の異常が筋疾患のために出現するのではありませんが。骨折のし易さは病気の進行度によります。重篤な骨折は、歩行できる時に転んで起こるより、車いすを使うようになってからの落下により起こります。太ももや上腕に多くみられます。
 本人にとって、滑りやすかったり、つまずきやすい靴底・床を避けます。危険な時は、無理せず、手すりや介助者の支えを利用するようにします。抱きかかえたり背負う時は、周りに十分なスペースを確保して、ぶつからないようにします。介助者もよろけたり、滑ったりしないように滑りにくい靴や動きやすい服装にします。抱く時に手や体幹や頭が安定した位置になっているか、正しい抱き方も、理学療法士と工夫しましょう。車いすのバランスをとり、危険な運転をしないようにします。周囲で十分に操作や安全運転を指導、確認します。スピードの出し過ぎや急に動いたり止まったり曲がったりして、バランスを崩して車いすごと転倒したり、身体が滑り落ちたり、物や車や人にぶつかったりしないようにします。
 できるだけ、小さい時から、あらゆる機会に、バランス(平衡感覚)を鍛えておくことは、あとあとまで役立ちます。
(石川悠加)

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