筋ジストロフィーに対する新たな遺伝子治療 
        「裸のDNA静脈注射」(日本経済新聞・掲載)について
筋ジストロフィーに対する新たな遺伝子治療 
       「裸のDNA静脈注射」(日本経済新聞・掲載)について

 2004年10月11日付けの日本経済新聞に「裸のDNA静脈注射」と題する米ウィスコンシン大学ウルフ教授のインタビュー記事が掲載されました。

国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部
 武田伸一先生に解説をお願い致しました。


2004/11/17
 
 2004年10月11日付けの日本経済新聞に「裸のDNA静脈注射」と題する米ウィスコンシン大学ウルフ教授のインタビュー記事が掲載されましたので、多くの皆様が興味を持ってごらんになったことと思います。
デュシェンヌ型を始めとする筋ジストロフィーでは、染色体遺伝子に異常があるために病気を発症します。この病気に対する最も有効な治療法は、蛋白質の設計図にあたる遺伝子を体内に取り込ませて補充する遺伝子治療です。
これまでの方法では、遺伝子を取り込ませる効率を上げるために、ウイルスを改変したベクター(運び役)を使うのが普通でした。ウルフ教授が提案している方法は、ベクターを使わずに、裸の遺伝子であるDNA(デオキシリボ核酸)を体内に直接注入するところに特徴があります。
この方法は、ベクターを使用しないために、遺伝子を取り込ませる時の効率が低いことが問題でした。特に、筋肉に直接注入する方法では、その効率は1%以下とされてきました。
ところが、ウルフ教授らは、阻血(採血や血圧を計る時のように、駆血帯をかけて血管の働きを一時的にとめること)下で静脈に注入すると、その効率が20%程度迄増加することを見いだしています。
この方法は、ウイルスを改変したベクターを使いませんので、免疫応答(免疫系の攻撃)を受けにくいのではないかと期待されています。ウルフ教授の研究グループの他にも、フランスの筋病学研究所のグループや、わが国でも京都大学の西川元也先生(筋ジストロフィー治療班の班員のおひとり)が研究を進めています。ウルフ教授は2006年には、臨床治験を実施したいと希望されています。
私たちは、その推移、特に遺伝子治療の効果がどれ位持続するのか、また阻血下で安全にDNAを静脈に注入することができるのかどうか十分に検証することが重要と考えています。
米国では、私たちが進めているのと同じアデノ随伴ウイルス (AAV) ベクターを用いた臨床治験が今年から始められる他、新たな薬物を用いた治療の試みも始められようとしています。
筋ジストロフィー協会のホームページを通じて、研究班の試みだけでなく、世界各国の最新の研究成果も随時お知らせして行きたいと思います。

国立精神・神経センター神経研究所 遺伝子疾患治療研究部 武田伸一


前のページへ戻る